ときは1990年代。
女子高生・那月は、夜ごとみる、不気味な樹木に囚われた血まみれの少年の夢に悩まされていた。
それ以外はとりたてて目立つところのない、平凡な女子高生だと、本人も周囲も信じて、日々を過ごしている。
そんな那月だから、世間に徐々に闇が広がっていることにも気づかない。
自分を庇護してくれる優しいおじ夫婦と従兄の葵に囲まれ、何不自由なく過ごしている。
だが、もちろん彼女には秘密があるのだ。
血の女神・荼吉尼(ダーキニー)だという秘密が…
あることがきっかけで那月は荼吉尼として覚醒し、慕わしい夢の少年を探しに行く。
相棒に、かの陰陽師の生まれ変わりである少年・鹿島忍を連れて…
しかし、それを激しく妨害する魔神があらわれて…どうなる?
という、おはなし。
那月が荼吉尼に覚醒してからの展開が、ともかくかっこいいのですよ。
荼吉尼は超然としていて、冷笑的で、それでいて一途で義理堅い。
夢の中の少年を助けるため、そして相棒になった少年・鹿島を助けるため、ひたすら戦う。
ホラー漫画にしてはかわいらしい絵柄なんですが、荼吉尼に待ち受ける運命は、なかなか過酷です。
(ホラー漫画にありがちな不必要なほどエグイ絵はほとんどありません。ご安心を!)
過酷ななかでも、夢の中の少年への愛を貫く荼吉尼と、それを助ける鹿島。
このコンビネーションもさることながら、かれらの行く手を邪魔する敵役もなかなか魅力的。
悪いには悪いんですが…どこか悲しい。
というか、この敵役の「夢」が現実になって、世界が滅びるらしいんですが、おいおい、いまの世界情勢、こいつの「夢」じゃないだろうなー。
それはさておき、物語は学園生活からはじまり、次第に敵役に追われつつの、夢の中の少年探しの旅に突入します。
しかも、その旅が「鬼に憑かれた人」が目印になっていて、それをたどると、この世に敵役を呼び出した張本人を探り当てられる、という、わくわくする展開!
ラストまで意外な展開の連続で、作者のストーリーテリング能力の高さに唸りっぱなし。
結末は、ぜひその目で確かめてくださいませ。
※
遠い昔の話をしましょう。
わたくしが東京に住んでいたころ、たまたま何かの用事で高円寺の駅前の本屋に立ち寄ったのですね。
というか、その当時は、本屋があったら、かならず入店して本を一冊買っていく、ということをしていました。
いつもは三国志関連の本を買うのですが、そのときは、なぜかめったに買わない少女漫画、しかもホラー漫画に心ひかれまして。
それがこの「荼吉尼」だったのです(全3巻)。
何度も読み返した、大好きな漫画。
しかし、東京から引っ越すとき、スペースの事情で漫画本をたくさん手放す必要が出てしまい…「荼吉尼」は手放さないつもりだったのに、誤って手放してしまった!
しかも、それに気づいたのがずいぶん経ってから。
そのときにはもう絶版になっていたし、古本で手に入れるのは嫌だったので、結局、それっきりに…
「あー、あの漫画の那月、かっこよかったなあ。なんかグッとくる扉絵とか、鹿島との関係性もすごくよかったのになあ」
ずーっとそう思っていたのです。
そして、2022年春。
Amazon Unlimitedの会員になったわたくし。
けっこう昔の漫画もあるんだね…といろいろ調べて、思い立ったのです。
「穂実あゆこさんの漫画もあったりして」
で、検索すると!
ああああああああ!
あるじゃん! 穂実あゆこさんの「荼吉尼」ッ!!
読めるんだ、また読めるんだー--!
これを巡りあいの奇跡と言わずしてなんと言おう!
読みたい本って、ふしぎなくらい読みたいなと思った時に、手元に来てくれるんですよねえ。
本の神様、ありがとう!
この場合は、女神・荼吉尼様ありがとう! かな? ともかくありがとう!
とまあ、興奮して一気読みしました。
だいぶ古い漫画なんですが、内容はぜんぜん古びていないと思います。
ホラーというよりも、現代によみがえった残酷な神話というか。
前述したとおり、荼吉尼は、女神らしく超然としていてクール、しかし一方で、一途で義理堅い。
この「義理堅い」というところがポイントで、ラストも「そうくるか!」という展開をみせます。
穂実あゆこさんの漫画はほかに「月姫~Gekki」がありますが、ほんとうに、人外の少女、超常の力をもつ少女の描写がうまい!
見た目はかわいいけれど、中身は鬼神。
好みのツボをグッと押されてしまいました。
Amazonだけではなく、あちこちのマンガアプリでも読めるみたいです。
面白さ保証!
読んで見てくださいましー。
ところで 穂実あゆこさん。
日本のバブル期前後に活躍されていた少女漫画家さん…
だと思うのですが、wikiもなく、詳しいことが今一つ調べきれませんでした。
もう漫画は描かれていないのかな?
そうだとしたら、ちょっと寂しいですね…