漫画版の魅力・優れた戦記ものとして~3巻までだけでも見て!
映画版のナウシカは漫画版の2巻途中までのエッセンスを分かりやすくまとめたもの、といってしまって過言ではないでしょう。
漫画版のナウシカは、じつに戦争の悲惨さを余すところなく書いた漫画となっていまして、同時に戦争を起こす人間の愚かさも容赦なく描かれています。
王蟲の群れと別れたあと、ナウシカはトルメキアの皇女クシャナの船にたったひとりで同乗し、戦場へ向かっていきます。
クシャナは漫画版においては王者の風格を持つ優秀な司令官でして、義兄である皇子や実父のヴ王に裏切られていると知りながらも、なぜか命令を忠実に守って最前線へ向かおうとする。
その本心を喝破した参謀のクロトワは、ヴ王の密命を受けていたことを白状し、クシャナに仕えることを約束します。
クロトワは映画版だと野心家のマキャベリストで、クシャナがいなくなったとたんに自分が前に出ようと画策する、でもどこか憎めない男でした。
漫画版だと、もちろんどこかユーモラスなのですが、もっと陰影の濃い人物として描かれています。
なにせ味方を撃ち殺すことすらためらいのない男(しかも機関銃で)。
死地にあるクシャナを助けるためとはいえ……でもって、映画版では明示されていませんが、漫画版ではクロトワは裏切りの対象であるクシャナに惚れてしまっているという設定。
ナウシカとクシャナたちを乗せた船は、やがて土鬼との戦いの真っただ中へ向かうことになります。
そして、クシャナは自らが育て上げた部下たちと再会。
疲弊していた兵たちは、クシャナの帰還により生気を取り戻し、土鬼への反撃をはじめます。
と、そこから3巻のラストまでが圧巻の戦闘シーンの連続。
はじめて読んだときはめちゃくちゃ興奮したのをおぼえています。
すげえ、宮崎駿! とすっかり惚れこんでしまったのでした。
とはいえ、宮崎駿氏からは、戦争好きなの、と冷たく言われてしまいそうですが……
でも面白いんですよ、この3巻は。
人を高揚させるという側面も持つからこそ戦争は危険だ、ということを言いたい漫画ではない、戦場をすさまじい想像力で描いた漫画です。
漫画版の魅力・ギラギラと輝く凶悪皇帝ナムリス
漫画版は4巻から土鬼に舞台を移していきます。
そこからは、未読の方のため内容に触れることは控えさせていただきます。
だんだんと土鬼帝国の闇があきらかになっていく過程は……はっきりいってグロテスク!
初めて読んだときは、なんだか得体のしれない連中だな、と薄気味悪く思いました。
とくに、皇帝ナムリスの闇の深さ。
宮崎駿氏は悪役を描かせたら本当にうまいです。
というか、善玉より悪玉に魅力を感じているのではないかと邪推してしまうほど、かれらは生き生きと描かれています。
ナウシカはたしかにヒロインなのですが、その役どころは軍の中心にいて旗を振るジャンヌ・ダルク的なものではなく(それはクシャナの役割)、人とふれあって、その人を感化し、動かしていく、というもの。
なので、ナウシカに感情移入できるか、というと、意外とそうでもない。
漫画版ではナウシカと母親の関係の悲しいエピソードも出てくるのですが、それでナウシカに親近感を持てるかというと、それでもまだ距離感があるというか。
この漫画のすごいところは、ナウシカ自身も、そういう俗世から乖離していく自分をわかっているところでしょうか。
ナウシカの自分への厳しさが際立つほど、同時に悪役の中の悪役、ナムリスも異様な輝きを見せます。
どんな役回りかは、ぜひ漫画版でお確かめください。
ナムリスは、三国志でいうと董卓というより孫晧ですな。
まだ続きが読みたかった……
どこかのアニメージュのインタビュー記事で、宮崎駿氏は、
「漫画版は土鬼からトルメキアに行って、それから風の谷に帰る」
ということを言っていた記憶があるのですよねえ。
引越ししたさいに、アニメージュをまとめて処分してしまったので、違う媒体かもしれませんが。
何度もアニメ制作のために漫画版の連載は中断されているので、その都度、構想が変わった可能性はあります。
というか、見たかったですねえ、漫画の完全形。
いちおう、いまの漫画版もきれいに終わるのですが、ナウシカたちがどういう人生をその後送っていくのか?
あとはだいたい想像がつくでしょう、ということで終わったけれど、しかし! 見たかったなあ、ほんとうにどうなっていくのか、その行く末を。
未完のままになるよりは、はるかにいいじゃないか、とは思うので、贅沢な要望ですね。
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