2021年6月4日金曜日

ベストセラー小説の書き方 ディーン・R・クーンツ 

 小説を、それもエンタメ小説を書きたい、という人が目の前にいたら、まずおすすめするだろう、この本。


タイトルが、ちょっと恥ずかしい。

「ベストセラー小説の書き方」です。

最近、もっと直截的なタイトルの本が出ているけれども。

しかし、人に「これ読んだんだー」といえるかというと、顔色を窺いがちなわたしにとっては、

「へー、ベストセラー小説を書きたいのか、誇大妄想の気があるんじゃないの」

と思われるのが怖いので、言えない……


同じ理由で、とってもおすすめしたかったけれども、思いきれなくてブログに書けないでいました。

今回、大好きな本を一冊、ブログに残しておこうと思い、思い切って書いてみました。

1996年発行の古い本ですが、創作の原点は変わらない。

しかも、まだ各書店で購入できるという。

いかにこの本が愛されているかの証拠です。

 


クーンツ先生というと、怖ーいサスペンスやミステリーの名手で本物のベストセラー作家。

ところが本書はユーモアたっぷりに、しかも親切丁寧に、小説の書き方を教えてくれています。

古い本なので、情報もちょっと古いところがありますが、そこはそれ。

クーンツ先生の書いた本を実例に、創作の要所をきっちり教えてくれる。

どんなテクニックが書かれているのか、というのは割愛。

え、そこを知りたいんだけど? という方は、実際に購入して読むことをお勧めします。

抜粋して、こうだ、と箇条書きにしても、この本の面白さは伝わらないからです。



純文学を目指している方には、保坂和志さんの「書きあぐねている人のための小説入門」(中公文庫)を推します。

どちらの方向にするか迷っている、という方は、両方を読み比べると面白いです。

なにせ、書き方や方向性が全然違う。

ただ、両者が真摯に小説というものに向き合っているという姿勢は同じです。


クーンツ先生は述べます。

「死をくじくために小説を書くのだ」と。

要するに、自分が死んだ後でも、作品は生き続ける。

そういう意味で、死をくじけさせることができる。

うーん、かっこいい。

 


それでも、ちょっとだけでも書き方を知りたいな、という方に本書のエッセンスの一部をお教えすると……

プロット

人物描写

テーマ

アクション

ムード

人目を引くイメージ

気のきいた文章

背景

これらが渾然一体となって魅力的なストーリーができあがる、とあります。

その細かい説明は、やっぱり本書を読んでほしい。損はしないです。


 

それから、こんな面白アドバイスも。

『「信憑性のある登場人物をつくり出す」

→ヒロインが美貌の女優、画家、エンジニア

コンピュータ技師、医者、弁護士だとしたら

鼻先ににきびをつけるくらいはして

人間味を加える必要があるとは思いませんか?』


まさに!

これにうなずけない人は、なかなかいないとは思うのです。

人の書いたものだと、

「こんなやつはいない」

と断じることができる。

でも書く側にまわったとたん、やりがちなんですよねえ。

願望を託しすぎたパーフェクト人間。

自分でも小説を書きますが、書いている人物が、あまりに瑕疵がないと気づいたときは、この文章を思い出すようにしています。



本書では、いかに面白い小説を書くかのコツが丁寧に、豊富に書かれています。

背景描写を丁寧にやれ、というエピソードも、なるほど、プロはそこまでやるのか、と驚くばかり。

京都が舞台の小説を書くために日本語を勉強したというエピソードには、びっくりしました。

さらに、自分の専門外の分野を調べる場合は、平易に書かれているので、児童書から攻めていけ、というのは非常に有用なアドバイスだと思います。

ほかにも、テクニックが満載。

この本まるまる素敵なアドバイスづくめなので、やっぱり、読んでもらったほうが早いですねー。

 


結論としては、「読んで、読んで、読みまくれ!」。

そして、読みまくった後は、本書の最初にもどって、書き始めるのです。

で、書きまくったあとは、また「読んで、読んで、読みまくれ!」。

スティーブン・キングも、「書くことについて」で、やっぱり、よい小説を書きたいなら、TVを見るのを楽しみにするより小説を読む時間をもとう、と書いていました。

読んでいるうちに、よい書き手にもなっていけるもの。

何度でも、くじけずに書いていけば、そのうちに、ベストセラーを書けるかも?


 

でも、その「くじけずに」ってところが問題なんだよ、という向きもありましょう。

何と本書は、スランプ克服法も紹介してる。

そのとっておきのひとつ。

それは、自分より下手だと思う作家の作品を読むこと!

この、ちょっぴり意地悪だけれど、世知に富んだアドバイス、めちゃくちゃ効きますよ。

(このアドバイスの本文は、もっとガツンとした文章で書かれていますが)

「こんなひどい作品でもやっていられるなら、自分だって」

と思って奮起したら、また書く。


何度でも、何度でも、励ましてくれる、クーンツ先生からの贈り物です。

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